宮沢賢治さんからの贈り物『雨ニモマケズ』

『雨ニモマケズ』(現代語訳)

雨にも負けず
風にも負けず
雪にも夏の暑さにも負けぬ
丈夫な体をもち
慾は無く
決して怒らず
いつも静かに笑っている
一日に玄米四合と
味噌と少しの野菜を食べ
あらゆることを
自分を勘定に入れずに
よく見聞きしわかり
そして忘れず
野原の松の林の陰の
小さな萱ぶきの小屋にいて
東に病気の子供あれば
行って看病してやり
西に疲れた母あれば
行ってその稲の束を負い
南に死にそうな人あれば
行って怖がらなくてもいいと言い
北に喧嘩や訴訟があれば
つまらないからやめろと言い
日照りの時は涙を流し
寒さの夏はおろおろ歩き
みんなにでくのぼーと呼ばれ
褒められもせず
苦にもされず
そういうものに
わたしは
なりたい

南無無辺行菩薩
南無上行菩薩
南無多宝如来
南無妙法蓮華経
南無釈迦牟尼仏
南無浄行菩薩
南無安立行菩薩

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多くの人が教科書で一度は目にしているであろうこの有名な作品は、宮沢賢治さんの死後に遺品のトランクから発見された遺作だそう。昭和6年11月3日、宮沢賢治さんが病床に伏せていた35歳のときに、当時愛用していた黒い手帳に書き留められたものと言われています。

病苦と闘いながら、どのような思いでこの言葉を綴ったのでしょうか。

自然や人を思いやる気持ちを持つ。
自己中心的にふるまったり、欲深くなってはいけない。

そう強く思いながらも、その難しさを感じ、けれでもやはりそうなりたいと願い続ける。「死」を前にして、自分への戒め、自分への深い祈りをあらわしている言葉のようにも思えます。

自分や誰かに不満を感じてしまったり、なにか気持ちがそわそわと落ち着かない、そんなときはこの「雨ニモマケズ」をゆっくりと声にだして読んでみる。そうすると、すっと心が洗われていくのがわかります。語感のリズムが心地よいのはもちろんですが、相手を思いやって毎日を過ごすことの素晴らしさを再確認できる作品というのは、そう多くあるわけではありません。

『雨ニモマケズ』は、ものや情報が多くあふれ、大切なことを見失ってしまいがちな現代を生きる私たちへ、宮沢賢治さんからの言葉の贈り物なのかもしれません。

[Photo by Kazashito Nakamura]