月が綺麗ですね


先日、約一年ぶりに大切な人と会った。場所は最近お気に入りの茶亭、渋谷の羽當(はとう)。仕事を済ませバタバタと待ち合わせ場所に向かうと、その人は笑顔でこう言った。

「月が綺麗ですね」

振り返ると、眩しいくらいにギラギラと輝くビル群の隙間から、細い月が控え目に顔を出していた。"ここ"で空を見上げ、月を綺麗だと思ったことが今まであったのだろうか。

私は言葉を失ってしまった。

目の前のギラギラにとらわれ、大切なものが見えなくなっている自分の心を寂しく感じたのだ。

そうだ、私は一年前もこの人の言葉に心動かされたんだ。その言葉に惹かれて旅の仕事に就いたことを誇りに、もっと先へ進んでいこう。

珈琲一杯では足りないほどに満ち足りた時間と出会いに感謝して。

『人生に旅心を』

– 2015年12月/自室で書いた日記より –