姉家族と穏やかなティータイムを過ごしていたときのこと。
5歳になった甥っ子が、フルーツケーキの上にのったフルーツを食べたあとで、クリームとスポンジだけになってしまったケーキをさみしそうに見つめていた。
まるで、突然この世界から大好きなフルーツがいなくなってしまったかのような顔をするから、「大丈夫だよ、まだここにちゃんとあるよ」と心の中で言いながら、わたしのショートケーキのイチゴをそっとのせてあげた。隣に座っていた父もまた、自分のショートケーキのイチゴをその横にそっとのせた。すると、甥っ子は少しだけほっぺたを赤らめながら、その大きなイチゴを嬉しそうに頬張った。
そうしてふたつのイチゴを食べ終わると満足気に席をたち、小躍りをしながらおもちゃを出して遊び始めた。机にはフルーツだけがなくなったフルーツケーキが残っている。
「こんなに残したらケーキさん悲しんじゃうよー」って声をかけようとして、すぐに言葉をのみこんだ。そう言うのは簡単だけれど、それを言ってしまったら、この子の幸せなひとときが消えてなくなってしまうような気がして、「イチゴ大好きだもんね。もう十分幸せなんだよね」とわたしはひとり頷いていた。
もしかしたら、あの子はまたあとでお腹が空いたときにこのクリームとスポンジを食べるつもりかもしれない。もしかしたら、チーズケーキを頼んだあの子のママにクリームとスポンジをおすそ分けしてあげるつもりかもしれない。そんなことひとつも考えていないかもしれないけれど、とにかく、フルーツとイチゴで幸せに満たされているあの子の世界をそのままにしてあげたかった。
嬉しそうにおしりをふりふりしながら踊っている姿を見ていると、幸せってなんてシンプルなんだろうって思える。それでいいんだよって言ってあげたくなる。本当は、その言葉を、私は私に言ってあげたいのかもしれない。
歳を重ねる度に思考が複雑になってしまいがちだけれど、こうして子どもから大切なことを教えてもらいながら一緒に成長していくんだろうなぁ。
これからも、ずっとずっとこの子が幸せのフルーツケーキの世界にいられますように。その穏やかで優しい時間を少しでも長く守ってあげられますように。
そんなことを考えた昼下がり。
窓からは暖かい光が差し込んでいた。
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