東京竹芝桟橋からおよそ1,000キロ南、そこにあるのは美しい海に囲まれた大小30余の島々からなる小笠原諸島。
2018年6月で返還50周年というひとつの節目を迎えたこともあり、今年は特に多くのメディアで取り上げられているようです。「世界遺産」はもちろん、「東洋のガラパゴス」「数奇な歴史」「美しい離島」… といったキーワードを多く目にしますが、その中で『time in whales』という一際異彩を放つ言葉で小笠原を表現した一人の写真家がいます。
それは、以前こちらの記事でもご紹介した中村風詩人さんです。
中村さんが初めて小笠原を訪れたのは2011年のこと。世界一周クルーズに乗船し、7つの海を渡りながら様々な海の姿に触れたことで、「もっと海のことを深く知りたい」と考えるようになったのだそう。その答えを求め、海の王者に会うために選んだ場所が小笠原でした。
「初めて訪れたそのとき、クジラと目が合ったんです。今でも目を閉じればあのときのクジラと目が合います」
そう話しながらまぶたを閉じるその表情はとても優しく、まるで中村さんの心の中にある小さな海が見えるようでした。
「またあのクジラに会いたいという思いで毎年小笠原を訪れるようになりました」
そうして小笠原に通い続けること20回、延べ約1年間の現地滞在を経て、諸島の四季、固有種、文化などを撮影し続けました。その中で辿り着いたひとつの形が『小笠原のすべて』という一冊の書籍と、今回の写真展『time in whales – ogasawara』だったのです。
「都会の真ん中に海を作りたかったんです。これまでの諸島の歴史的出来事を、小笠原に回遊するザトウクジラが寄り添ってきた時間の流れに重ねました」
中村さんのこの言葉通り、展示会場に足を踏み入れると不思議と身体が浮遊しているような感覚に包まれていきます。
私は学生の頃から写真展を観るのが好きで、大きな美術館から小さなギャラリーまで足を運んできたのですが、こんなに心地よい体験をしたのは初めてかもしれません。
普段なかなか観ることのできない大胆なレイアウト、不規則なようで規則的なゆらめきが波のような安らぎをもたらし、その世界観に思わず心を奪われてしまいます。
小笠原が歩んできた歴史、貴重な生態系の姿、美しい海の世界を感じられるのはもちろんですが、 “島が誕生する” という神秘について考えるきっかけにもなり、新しい発見や感動がありました。
常設展だったらいつでも会いに行けるのに…と思ってしまうほどに心地よい空間。
クジラになって美しい世界を泳いでいるような感覚を、ぜひ皆さまにも体験していただきたいです。
仙台展:仙台メディアテーク(2019年1月11日~1月14日)
玉川TSUTAYA/蔦屋家電:2018年5月より販売コーナーにパネル掲示
※現在企画中:茨城展:水戸京成百貨店特設ギャラリー(2019年春予定)
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